Channeling / 呪いの電話番号

A
えっとじゃあ、そろそろ、
B
はい。
A
色々聞いてみてもいいですか、あの「不気味な儀式の噂」について。
B
はい、大丈夫です。
A
まず最初に聞いておきたいんですが、
その噂ってどこをきっかけにして知りましたか?
B
きっかけで言うと、電話とかに関する、
いろんな話を教えてもらったのが、最初だったと記憶してますね。
A
電話とかに関する、噂。
B
噂というか、怪談じみた、怖い話って意味です。
なので噂といっても、誰々が別れたとか、そういうゴシップ的な意味合いではなく。
A
電話とかに纏わる怪談っていう理解でいいですかね。
B
はい、割と近いと思います。
A
具体的にはどういう?
B
私が教えられたのは主に、これまで実際に拡散されたことのある話です。
「怪人アンサー」、「花の割れる音」、「さとるくん」、
あとは「呪いの電話番号」みたいな噂ですね。
そこにかけたら死ぬ、というふうな。
A
それを、教えられたんですね、知ったというよりは。
B
そうですね。噂として聞いたのではなく、
そういうのがあったと教えられた、というのが正しいかなと思います。
A
昔こういう出来事や事件があったんだよ、というのを教えられた。
B
はい。
A
それらに共通しているのが電話だった、ということですか?
B
電話という媒体が共通しているのではなく、
そういう電子の媒体を使っている、という点が共通していました。
A
あー、なるほど。
B
「怪人アンサー」や「さとるくん」は電話を媒介して怪異と繋がる、
という意味の怪談ですし、
A
はいはい、「花の割れる音」もskypeで、霊感を開花させようとした人の話ですよね。
B
そういうことです。なので「こっくりさん」あたりも教えられました。
A
こっくりさんは十円玉と文字盤を媒介していますもんね。
そういった昔の怖い話を教えられていくうちに今回、
あの事件のことも知ったと。
B
私はそう思っています。
A
なるほど、理解しました。では本題なんですけど、
B
はい。
A
その噂の舞台も電話ですか?
B
電話、でもあります。もっと具体的に言うとボイスチャットです。
A
ボイスチャット。さっき話に出たskypeみたいな場所の話ですか?
B
はい。これはskypeではなくdiscordですが。
A
discord。ということは、音声通話とチャットが出来る場所で、
さっき言った「こっくりさん」じみた、怖い話が発生した?
B
ですね。噂の構成は割と単純で、
要はこっくりさんを呼ぶ場所が教室からチャット部屋に変わった感じで。
A
あー、わかってきたかもしれないです。
そのdiscordサーバ、つまりはトークルームみたいな場所に、
こっくりさん……ではないですけど、
そういう怖い存在を呼び出すっていう話なわけですかね。
B
そうです。ある特定の手順を踏めば、
その場所に人ではないものを呼び出して、
いろいろな話をすることが出来る、という噂でした。
A
そこでする話の内容は、どういったものですか。
例えばこっくりさんだったら、まあさとるくんもそうですけど、
呼び出した怖い存在が、どんな質問にも答えてくれるじゃないですか。
B
噂話の大まかな内容は、主に噂が流行した時期によって、ふたつに分かれていますね。
A
じゃあ古い時期というか、初めのころはどういう話をしていたんですか。
B
簡単に言うと、「こっくりさん」の逆です。
A
逆。え逆なんですか?
B
はい、逆です。それまでの噂の多くは、怖いものが回答者でしたが、
この噂では怖いものが質問者側に回るんです。
A
そっち側が質問をする。じゃあ、体験する人はそれに答えるわけですか。
B
はい、そこでいろんな人が、怖いものの投げかける質問に答えるんです。
A
どういう質問をされるんですか?
B
そこがこの噂の不気味な部分になるんですが、
まるで調査でもされているような、色々な質問をされたそうです。
A
というと。
B
「2023年の4月25日、██さんには何が起こったと思いますか」
「何かが起こったとして、それが惨たらしい事件に関するものだったら、
どういった内容が考えられますか」
そういう、やけに不気味な内容の質問ばかりだったそうです。
A
体験する人は、どういう答え方をするんですか。
B
基本的にはどう答えてもよくて、
答えなかったら或いは変な答え方をしたら死ぬ、
みたいな尾鰭も別にありませんでした。
A
ということは、その事件のような何かに対する調査じみた質問に、
私たちが想像を織り交ぜて回答をするということでしょうか。
B
はい。
A
だとしたら、わざわざ私たちが怖いものを呼び込んで、
そんな不気味な話をする必要性が無いように見えます。
そもそも質問者が怖いものなのかもわかりませんし。
B
そうですよね。でも、その体験をした人たちは、
それを少なからず不気味なものと捉えて、
わざわざ  とその会話をしようとしたんです。
A
それは何故でしょうか。
B
さきほど「ある特定の手順を踏めば、それを呼び出すことが出来る」と話しましたね。
理由はその手順に関係しています。
彼らは新しく作ったサーバに参加者と  を呼び込んで、
ある事件に纏わる色んな質問をするのですが。
A
そこに何かあるんですか?
B
噂では、サーバ名に「雑談(ぞうたん)」という言葉を含めて、
ある特定の文言とともに招待リンクを共有すればいいらしいんです。
そうすると、確実にあるユーザが入ってきて、質問が始まるそうです。
A
特定の文言……というのは、いわゆる「こっくりさん、いらっしゃいましたら」
みたいな、呪文めいたものですか?
B
目的としてはそういうものに近いと思います。
それを何処かのWEBページに上げさえすれば、
それがどんなにマイナーな場所であっても、
そもそも不特定多数に公開されないような──
たとえば鍵アカウントで行った投稿とかでも、
すぐに  が入ってくるそうなんです。
A
え、つまり来るはずのない何かがサーバに入ってきて、
「惨たらしい事件」についての不気味な質問をしていく、と。
B
はい。その部分が、まず普通だったら起こりようのないことに、
例えば十円玉がひとりでに動くとかそういう現象に、相当しているんだと思います。
A
それは確かに、すこし不気味ですね。
それこそ「不気味な誰かにかかる電話番号」みたいな噂を聞いて、
遊び半分で電話をかける人はいましたし、
面白そうだと実践してみる人はいそうです。
B
そうですね。実際、それで多くの人が、
といっても一クラスに満たない人数だったようですが、
そこで  の質問に答えたそうです。一クラスに満たないとしても、
こういった学校の怪談じみた噂話を実践した人数としては多い方でしょう。
A
なるほど、大体わかりました。
ちなみに、そこで彼らは質問に対してどういう回答をしたんでしょうか。
B
もちろん彼らはその事件のことを知るはずもなく、
調査とはいえど即興で質問に答えていましたので、
当てずっぽうとか、或いは昔聞いたことのある噂話のディテールを援用するとか、
そういった答え方をする方が多かったようです。
A
なるほど。でも  は「調査」みたいな聞き方をしているわけですよね、
少なくとも体裁上は。なのにそんな答え方をしていいものなんでしょうか。
B
いえ、むしろ  が企図していたのはまさにその答え方だったようです。
それが判るようになったのは後になってからだったのですが。
A
後になってから?
B
はい。先ほど言及したように、噂話の大まかな内容は、
主に噂が流行した時期によって、ふたつに分かれていまして。
今話していたのは、そのうち古い方の噂話だったんです。
A
ああそうか、私が古い方から聞いたのか。
じゃあ時期が下ってからは、どういう噂話が流行したんですか?
B
基本的な噂話の構造は、先ほどのものと変わりません。
「雑談を始めます」という名前で、
ある特定の文言とともに招待リンクを共有すると  が入ってきて、
サーバ内で話が出来るようになる。
A
なるほど。会話の内容も?
B
いえ、会話の内容は違います。
次は、質問者と回答者が入れ替わっているんです。
今度はこわいものたちが「回答者」として、
それこそこっくりさんやさとるくんのように、参加者たちの質問に答える。
A
へえ、それが変化したきっかけなどはあるんですか?
B
具体的にいつだったのかは定かではありませんが、
ある時期から明確に  の振舞いが変わったのです。
それまでは  が質問者だったので、参加者が特にアクションをしなくても
質問によって会話が発生していたのですが。
A
ああ、つまり質問を待っても、  が何の言葉も発しないと。
B
はい。それでやきもきした参加者が「質問をしないのですか?」
と投げかけたところ、  は回答を始めたのです。
そのときに  がどんな回答をしていったかは、
あなたも知るところだとは思いますが。
A
まあ、そうですね。むしろ不気味な噂として本格的に伝わり始めたのはその時期、
つまり  が回答者に回ってからですよね。
B
はい。「謎の不気味な事件について質問する怖い儀式がある」と。
それこそ「学校の怪談」的な怖い話としては、
こちらの質問に怖いものが回答するという構造の方が参加しやすいので。
A
なぜ  は、突然に振舞いを変えたと思いますか。
B
恐らくですが、  は「情報の蓄積が済んだ」と判断したからだと思っています。
A
情報の蓄積、というと?
B
例えば機械学習の分野に、アノテーションという概念がありますね。
A
ああ、何となくですが聞いたことがあります。
いろんな情報にタグ付けをする、みたいな話ですよね。
B
はい。例えば「こっくりさん」や「さとるくん」を
「怪異と話す内容の怪談」というタグに紐付けると、
今後似たような別の話が出たときに、その学習に基づいて
「それはこっくりさんに似た話ですね」と評価できる。
A
そのアノテーションとやらを、  はしようとしたと?
B
はい、推測ですが。  は最初、
「もし██さんに惨たらしい事件が起こったとしたら、どんな内容か」
などの質問を重ねることで、
人が「惨たらしい事件」と聞いて即興で思いつくさまざまな不気味な想像や、
色々な怪談の事例を集めました。
A
そうでしたね。参加者がそこで答えた内容の中にも、
「昔聞いたこういう噂がある」といったものが多くあったみたいですし。
B
はい。そこである程度の情報が集まって、
「事件」に関して提供された情報が出揃った。
だから次は、それに基づいて  側が情報を出す段階に入ったのではないかと。
A
なるほど。怖い噂として得た情報の最大公約数を、
今度は質問への回答という形で発信して。
B
それが「謎の不気味な事件について質問する怖い儀式」として
知られるところとなった。少なくとも私は、そう推測しています。
A
わかりました。「不気味な儀式の噂」について聞きたかったことは、
だいたい質問できたかなと思います。今日は有難うございました。
B
いえ、お力になれたのなら何よりです。
A
ある程度私の中で合点も行きましたし。
だからあなたも律儀に回答してくれたんですね。
B
はい。これが私の役割なので。
A
それでは、そろそろサーバを閉じようと思います。
ありがとうございました。
B
はい、ありがとうございました。
6月18日の夜、彼らに会えるのを楽しみにしています。
それでは会話モードを終了します。